はじめに
虐待、事故、暴力、災害といった肉体的、精神的な衝撃を受けることで、長期的に精神・体調面に不調が生じる存在がトラウマ(psychological trauma)です。
トラウマは、1887年ピエール・ジャネによって
ギリシャ語から「心的外傷」という意味で作られた造語。
後にジークムント・フロイトによってトラウマ概念が広められ知られるようになりました。
フロイトとともに研究していたアドラーはフロイトと決別し、トラウマの存在を否定。
独自の「個人心理学」を提唱します。
今回は、トラウマの基本的な症状PTSD、解離性障害について取り上げていきます。
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2つのストレス反応(闘争・逃走)と「固まり・麻痺」
ストレスは、対人関係、生活環境、自然災害など常に身近なところに存在します。
軽度のストレスであれば、トラウマとはなりませんが、生命の危機に関わるようなインパクトの強いストレスであると、身体の神経系にPTSDや解離性障害といったトラウマの後遺症が残ります。
そして、その受ける頻度が多くなるほど危険アラームを察知する扁桃体が過敏となり、神経系が繊細となってストレスに対抗、
防衛する力が大きくなります。
大きなストレスに対する防衛反応として、
「闘争・逃避(逃走)」
「固まり・麻痺」
の2つのものがあることで知られています。
闘争・逃避(逃走)
「闘争・逃避」のストレス反応は、我を忘れて、無我夢中に攻撃することで抵抗するか、それが無駄であると逃走して身を守るといった積極的な防衛反応をいいます。交感神経が高まったPTSD的症状に影響します。
固まり・麻痺
「固まり・麻痺」は、足がすくんだり、硬直して意識を失うことで身を守る消極的な反応です。
動物でいうと死んだふり状態になってしまう感じです。
ストレス的な体験を受けたとき、意識を失うことで怖い体験を忘れたり記憶に残さない、あるいは感覚を麻痺することでストレス負荷を軽減するような防衛反応です。 副交感神経(背側迷走神経)が高まった解離性障害的症状をもたらします。
「闘争・逃避」と「固まり・麻痺」の2つのストレス反応でそれぞれ、PTSDと解離性障害のトラウマ後遺症が残り、精神疾患のきっかけとなっていきます。
ストレス反応後の後遺症(PTSD,解離性障害)
事故などのケガで起こる外傷と対照的なのがトラウマ心的外傷。
心的外傷による後遺症(トラウマ)にはPTSDがよく知られていますが、
対照的な性質の解離性障害もあります。
PTSDは交感神経を高め覚醒作用をもつ陽性的性質、
解離性障害は副交感神経を高め鎮静作用をもつ陰性的性質
をもちます。
PTSDとは、フラッシュバックのような過去の記憶が蘇り、トラウマシーンを断片的に呼び起こし深いな感覚を引き起す症状です。
一方、解離性障害は、離人症のような意識がぼんやりとし感情が失われていく感覚があるもので、生きている現実感が弱く無気力になっていく症状です。
解離性障害には、記憶が時に飛ぶ解離性健忘や、内面にいくつもの人格をつくる解離性同一障害(DID)があります。解離が強くなると、内面との対峙が強くなり、「あれこれ考えて思考がとまらない」といった思考促迫が強くなっていったり、哲学者のように「あーでもない、こーでもない」と深く考えるようになります。
感受性のつよいHSP(ハイリーセンシティブパーソン)の人は、解離をうけやすいため、1人で内面でいろいろと物事を考え、複雑な思考をもちやすくなる傾向があります。
近年の脳科学の研究によれば、PTSDと解離性障害は正反対の性質をもつものと考えられています。
ただし、火と水のようにお互い相入れない異質なものではなく、連続性をもった繋がりをもったものと捉えられています。
すなわち、色に例えるとグラデュエーション的、光ではスペクトル的な表現になります。
■境界性パーソナリティ障害(BDP)…キレる・態度が豹変
■心的外傷後ストレス障害(PTSD)…フラッシュバック
■解離性障害…幻聴・健忘・離人症
■解離性同一性障害(DID)…人格交代
PTSDや解離性障害で起こる症状
恐怖体験、ショッキングな死にさらされるような出来事を受けることでPTSD的トラウマを受けて交感神経が高まり、 過覚醒で不眠、不随意運動、チック、トゥレット症候群、ひきつけ、痙攣、驚愕反応、癇癪、多動、気持ちの浮き沈みが激しく、憎しみや不安、焦り、赤面、苛立ち、麻痺、多汗、吐き気、めまい、ドライアイ、動悸、高血圧、頭痛、耳鳴り、不安障害、パニック障害、過呼吸症候群、肩こりといった症状が高くなります。
過干渉のような慢性ストレスを受けると、解離性障害が強くなり、ブレーキがかかったかのように身体がずっしりと重く、血液の循環が悪い、青白い、自意識が弱くなり、無表情になる、無気力、朝弱い、眠気、頭がぼんやりする、倦怠感、低血圧、失感感情、無口といった症状が強くなります。
ストレス反応と自律神経系との関係
大きなストレスが積み重なっていくと、
自律神経失調症、
睡眠障害、
うつ病といった重たい精神疾患
を引き起していくようになります。
一般的にストレスがかかると交感神経が優位と言われていて、なぜ交感神経優位なPTSDと副交感神経優位な解離性障害といった相反する性質の後遺症が残るのか、従来の交感神経、副交感神経といった2つの自律神経系の考え方では上手く説明できませんでした。
しかし、「交感神経」と副交感神経を2つの「腹側迷走神経」、「背側迷走神経」に分けた新しい3つの神経系で考えたポリヴェーガル理論の登場によって、上手く説明できるようになりました。
PTSDの場合、交感神経優位
「闘争」や「逃走」のストレス反応は、アドレナリンが分泌された興奮状態にあるので、自律神経は交感神経が優位になります。
ブレーキとアクセルで例えるなら、アクセルをいっぱい踏んだ暴走状態で、興奮と恐怖に侵された状態になります。
過覚醒状態になっているため、不眠症やパニック障害、全般性不安障害、非定型うつ病を誘発しやすい症状といえます。
解離性障害の場合、副交感神経優位
「固まり」「麻痺」のストレス反応は、もともとは恐怖で交感神経が優位になっている状態ですが、その興奮を抑え込もうとブレーキをかけようとするため副交感神経が高まった状態になります。
通常リラックスや安全を感じられる副交感神経は、「腹側迷走神経」と呼ばれていますが、このときブレーキとして働く副交感神経系は「背側迷走神経」として知られています。 解離が強くなると、背側迷走神経が強くなっていき、無気力感、眠気、身体が重々しいといった、定型うつを招きやすくなります。
PTSDと解離性障害は一体で存在
PTSDと解離性障害が連続性をもっているということを説明しましたが、
これは、ストレスをうけトラウマとなるときは、それぞれが単独ではなく
両方同時に受け取っているということになります。
これはどういうことかというと、
1回あたりのトラウマを受けるとき
PTSD100%
解離性障害100%
受け取るといったものではなく、
PTSD80%+解離性障害20%(PTSDという場合)
PTSD20%+解離性障害80%(解離性障害という場合)
といった感じです。
トラウマを一つの丸い玉に例えると、赤(PTSD)と青(解離性障害)単色でなく、グラデュエーションがかった色になり、PTSDは赤が、解離性障害は青の比率がそれぞれ多いといったイメージです。
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