目次
国生み・神生みを創作物語としてまとめています。
記紀の現代語訳を読みたい方は後半をご覧ください。

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天地がまだ定まらず、光も闇も混じり合っていたころ、世界はまるで胎内のように静かで、どこか温かい気配に満ちていました。
上へ昇ろうとするものは薄く軽く、下へ沈もうとするものは重く濁り、しかしまだ境界は曖昧で、すべてがゆっくりと渦を描いておりました。
その渦の中心に、やがて“気配”が生まれます。
それは形を持たぬまま、ただ「存在しようとする意志」だけが先に芽生えたような、かすかな光のゆらぎでした。
この光は、後に天となる領域へと昇り、澄みきった高天原の気配をつくり出します。
一方、沈む気配は大地の底へと降り、まだ固まらぬ泥のような世界を形づくっていきました。
こうして、天と地はゆっくりと分かれはじめます。
しかし、まだ世界は不完全で、ただ広がるばかりの空虚が続いていました。
そのとき、天の高みにふわりと立ち上がるようにして、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が姿を現されます。
続いて、柔らかな光をまといながら、伊邪那美命(いざなみのみこと)が生まれます。
お二柱は、まるで長い眠りから目覚めたように、静かに互いを見つめ合いました。
まだ何もない世界を見渡すと、そこにはただ、形を求めてうごめく“未完成の大地”が広がっていました。
天つ神々はその様子を憂い、お二柱に語りかけます。
「この漂う大地を整え、国として生み育てなさい。」
その声は風のように優しく、しかし確かな使命を帯びていました。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、その言葉を胸に受け止め、ゆっくりとうなずきます。
お二柱はまだ若く、世界の仕組みも知らぬままでしたが、胸の奥には不思議な確信が芽生えていました。
「私たちなら、この世界に形を与えられる。」
その思いは、天と地の間に一本の光の柱のように立ち上がり、国生みの旅の始まりを告げます。
こうして、まだ名もない世界に、初めて“創造の意志”が宿りました。
お二柱は天の浮橋へと歩みを進め、これから始まる長い物語に向かって、静かに一歩を踏み出されるのでした。

伊邪那岐命と伊邪那美命は、天の浮橋に立たれました。
そこは、天と地の境界にただ一本だけ架かる、細く長い光の橋。
足元にはまだ固まらぬ大地が、海のようにゆらめき、どこまでも深い闇と光が混じり合っていました。
お二柱は、天つ神々から授かった天の沼矛(あめのぬぼこ)を手に取られます。
矛は静かに光を帯び、まるで世界の始まりを知っているかのように、かすかな震えを放っていました。
伊邪那岐命は矛をしっかりと握り、伊邪那美命はその横で静かに祈るように目を閉じます。
二柱の呼吸がそろったとき、世界の気配がふっと静まり返りました。
風も止まり、光も闇も、ただお二柱の動きを待つように沈黙します。
伊邪那岐命はゆっくりと矛を下ろし、混沌の海へとかき入れました。
その瞬間、世界はわずかに震え、深いところから響くような音が聞こえたと伝えられています。
矛先が渦を描くたび、光と闇が混じり合い、やがて粘り気を帯びた“何か”が形を求めて集まりはじめました。
やがて伊邪那岐命は矛を引き上げます。
矛の先から滴り落ちたしずくは、空中でゆっくりと回転しながら固まり、ひとつの島となりました。
その島こそ、淤能碁呂島(おのごろじま)といいます。
島が生まれた瞬間、天の浮橋の周囲には柔らかな風が吹き、世界が初めて“形”を持ったことを祝福するかのように、光が揺らめきました。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、その光景を静かに見つめ、胸の奥に温かいものが満ちていくのを感じられます。
「私たちは、世界に初めての大地を生み出したのだ。」
その確信は、お二柱の心に深く刻まれました。
まだ何もない世界に、初めて“足を置く場所”が生まれたのです。
お二柱は天の浮橋から降り、淤能碁呂島へと歩みを進めます。
島はまだ若く、柔らかな光に包まれ、どこか呼吸をしているような気配を帯びていました。
その中心には、天と地をつなぐ象徴として天の御柱(あめのみはしら)が立ち上がっていました。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、この御柱を中心に巡り合い、夫婦の契りを結ばれます。
それは、世界に初めて“調和”が生まれた瞬間であり、ここから本格的な国生みが始まっていくのでございます。

淤能碁呂島で夫婦の契りを結ばれた伊邪那岐命と伊邪那美命は、天の御柱の前に立ち、世界に広がる大地を生み出すため、静かに心を整えておられました。
島は柔らかな光を放ち、まるで新しい生命の胎動のように震えています。
その震えは、これから生まれる島々と、その島を守護する神々の気配を先取りしていました。
海は揺らぎ、風は行き場を探し、光は漂うばかりで、どこにも“定まった場所”がありませんでした。
大地はもっと広がりを求め、世界そのものが「形と神を与えてほしい」と静かに訴えているようでした。
そのとき、海の底から微かな声が響きます。
「我らを生み出し、座を与えよ。」
それは、まだ姿を持たぬ神々の胎動でした。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、その声を胸の奥で受け取り、静かにうなずきます。
八つの島々と、その島に宿る神々の誕生
1. 淡道之穂之狭別島(あわじのほのさわけのしま)
海の底から淡い光が立ち上り、霧のように広がりながら大地の形を描きます。
その中心に、最初の島の守護神が姿を現しました。
淡道之穂之狭別神(あわじのほのさわけのかみ)
神は穂のようにしなやかで、朝霧のように淡い光をまとい、島の大地にそっと触れました。
その瞬間、島は呼吸を始め、世界に最初の安定が生まれます。
伊邪那美命は微笑み、「この島は、世界の最初の息吹を宿しています」と語られました。
2. 伊予之二名島(いよのふたなのしま:四国)
四つの光が海の底から同時に立ち上り、それぞれが異なる色と気配を帯びていました。
光は空中で回転し、四つの魂を持つ島を形づくります。
その光の中から、四柱の神が姿を現しました。
愛比売神(えひめのかみ)
飯依比古神(いいよりひこのかみ)
大宜都比売神(おおげつひめのかみ)
建依別神(たけよりわけのかみ)
四柱は互いに調和しながら島を守護し、四国の四つの地域にそれぞれの気配を宿しました。
伊邪那岐命はその調和を見て、「この島には多様な命が宿るだろう」と感じられました。
3. 隠伎之三子島(おきのみつごのしま)
三つの光が寄り添うように立ち上り、三つ子のように互いを支え合いながら島を形づくります。
その中心から、三柱の神が姿を現しました。
天之忍許呂別神(あめのおしころわけのかみ)
天之忍許呂比売神(あめのおしころひめのかみ)
天之忍許呂若神(あめのおしころわかのかみ)
三柱は互いに寄り添い、海の流れを整え、島々の間に優しいリズムをもたらしました。
4. 筑紫島(つくしのしま:九州)
海の底から立ち上る光は太く、重く、まるで大地そのものの意志が形を求めているようでした。
その光の中から、四柱の力強い神が現れます。
建日向日豊久士比泥別神(たけひむかひとよくじひねわけのかみ)
建日別神(たけひわけのかみ)
建日向神(たけひむかのかみ)
建日子神(たけひこのかみ)
山々は堂々とそびえ、海は深い青をたたえ、島は世界の柱となるような存在感を放ちました。
5. 伊伎島(いきのしま)
海の息吹を受けて生まれた島には、潮風のように軽やかな神が現れます。
天比登都柱神(あめひとつばしらのかみ)
神は海と空の境界を整え、風の道をつくり、島に清らかな気配を宿しました。
6. 津島(つしま)
潮の満ち引きと深く結びつく島には、海の調律者のような神が現れます。
天之狭土神(あめのさどのかみ)
神は海路を整え、世界の流れを調和させました。
7. 佐度島(さどのしま)
静かで神秘的な島には、深い調和を象徴する神が現れます。
佐度大神(さどのおおかみ)
伊邪那美命はこの神に、どこか懐かしい気配を感じられました。
8. 大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま:本州)
最後に生まれた島は、最も大きく、豊かな大地を持つ島でした。
その中心から、世界の中心を象徴する神が姿を現します。
大倭豊秋津彦神(おおやまととよあきつひこのかみ)
神は山々を整え、川の流れを導き、生命の気配を世界に満たしました。
この島が生まれた瞬間、世界は大きく息を吐き、ようやく“中心”を得たように安定していきます。

島々が生まれ、世界の骨格が整い始めたころ、
大地はまだ静かに脈打つだけで、山も川もなく、
風は行き場を探し、海はただ揺らぎ続けていました。
世界は「形」を得たものの、まだ「息」をしていませんでした。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、淤能碁呂島の中心に立ち、
天の御柱の前で静かに目を閉じられました。
二柱の胸の奥には、まだ姿を持たぬ多くの神々の気配が
胎児のように眠っているのが感じられました。
世界は、次の段階を求めていたのです。
それは「自然の神々」の誕生でした。
島々が生まれたことで、世界の深層に眠っていた力が動き始めました。
海の底からは重い響きが、空の高みからは澄んだ光が降り、
大地の奥深くでは、まだ名もない神々が目覚めようとしていました。
伊邪那美命は胸に手を当て、静かに語ります。
「大地が、次の命を求めています。」
伊邪那岐命はうなずき、二柱は再び創造の力を合わせました。
その瞬間、世界の気配が変わり、
海も風も光も、すべてが二柱の動きを待つように沈黙しました。
1. 石土毘古神(いわつちびこのかみ)
大地の底から、重く深い響きが立ち上がりました。
それは岩が押し上がる音であり、世界の骨格が形を求める声でした。
岩の気配が凝縮し、ひとつの神が姿を現します。
その身体は大地そのもののように重く、
世界の基盤を支える力を宿していました。
2. 石巣比売神(いわすひめのかみ)
石土毘古神の隣に、柔らかな光が立ち上がり、
岩の間に宿る“隙間の命”が形をとりました。
彼女は岩の間に芽吹く生命の気配を司り、
大地に柔らかさと調和をもたらす存在でした。
3. 大山津見神(おおやまつみのかみ)
次に、大地の奥深くから巨大なうねりが起こりました。
それは山脈が隆起する前触れであり、
世界が高みを求める意志そのものでした。
山の気配が集まり、
大山津見神が姿を現します。
その背は山々のように高く、
その息は風となり、
その足元からは大地の鼓動が響きました。
山々は彼の誕生とともに隆起し、
世界に初めて“高低”が生まれました。
4. 野椎神(のづちのかみ)
山が生まれると、次に大地の表面が柔らかく揺れ、
草木の気配が立ち上がりました。
野椎神は、草原と野の生命を司る神として現れ、
その歩く場所には柔らかな草が芽吹き、
世界に初めて“緑の息吹”が広がりました。
5. 海の神々の誕生
大地が整うと、海は自らの形を求めて揺らぎ始めました。
波が高まり、潮が満ち、
その中心から海の神々が姿を現します。
綿津見三神(わたつみのさんしん)
海の表・中・底を司る三柱の神々で、
海の流れ、潮の満ち引き、深海の静寂をそれぞれ統べました。
海は彼らの誕生とともに安定し、
世界に“水の秩序”が生まれました。
6. 風の神の誕生
山が立ち、海が広がると、
その間を吹き抜ける風が形を求めました。
空の高みから光が降り、
その光が渦を巻いてひとつの神となります。
志那都比古神(しなつひこのかみ)
彼は風の流れを整え、
世界に“動き”と“巡り”をもたらしました。
7. 木の神・土の神・水の神の誕生
大地が整い、風が吹き、海が流れると、
世界はさらに細やかな命を求めました。
・久久能智神(くくのちのかみ)(木の神)
・埴山姫神(はにやまひめのかみ)(土の神)
・弥都波能売神(みつはのめのかみ)(水の神)
彼らは世界の細部を整え、
木々の成長、土の豊かさ、水の循環を司りました。
自然神が次々と生まれるたび、
世界は少しずつ色を帯び、
音を持ち、
香りを持ち、
ついには“息をする世界”となりました。
山はそびえ、川は流れ、
草木は芽吹き、風は吹き、
海は満ち引きし、
大地は豊かに広がりました。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、
その光景を静かに見つめながら、
胸の奥に深い満足と、
そして次に訪れる運命の気配を感じていました。
自然神の誕生は、
やがて訪れる“火の神の誕生”という
大きな転換点へとつながっていくのです。

大地が整い、山はそびえ、川は流れ、草木は芽吹き、
海は満ち引きし、風は世界を巡り、
自然神たちがそれぞれの役目を果たし始めたころ、
世界はようやく「息をする大地」となっていました。
しかし、まだ生まれていない“最後の大きな力”がありました。
それは、世界に生命の循環をもたらすための、
破壊と再生の力でした。
その力は、伊邪那美命の胸の奥で静かに胎動していました。
自然神が次々と生まれた後、
伊邪那美命の身体の奥深くで、
これまでとは異なる重く熱い気配が動き始めました。
それは、山の奥で眠る溶岩のように赤く、
海の底で燃える火のように激しく、
世界の深層を震わせる力でした。
伊邪那美命は胸に手を当て、苦しげに息をつきます。
「この子は……他の神々とは違います。
世界を温め、育てる力……
けれど同時に、すべてを焼き尽くす力でもあります。」
伊邪那岐命はその言葉を聞き、
胸の奥に不安と覚悟が同時に芽生えました。
世界は、火の力を必要としていました。
しかし、その誕生は大きな代償を伴うことを
二柱は薄々感じていたのです。
ついにその時が訪れました。
伊邪那美命の身体から、
燃え盛る炎のような光が立ち上がり、
世界を赤く照らしました。
その光は、山の噴火のように激しく、
海の底の火山のように深く、
空の稲妻のように鋭く輝きました。
そして、炎の中心から一柱の神が姿を現します。
迦具土神(かぐつちのかみ)
その身体は炎そのものであり、
世界に熱と光をもたらす力を宿していました。
しかし、その誕生の炎はあまりにも強く、
伊邪那美命の身体を焼き、深い傷を与えてしまいます。
迦具土神が生まれた瞬間、
伊邪那美命は炎に焼かれ、倒れ込みました。
大地は震え、海は荒れ、
風は悲しみのように吹き荒れ、
世界は一瞬で暗い影に包まれました。
自然神たちはその気配を感じ取り、
山は沈黙し、川は流れを弱め、
草木は風に揺れながら悲しげにざわめきました。
伊邪那岐命は伊邪那美命の手を取り、
震える声で呼びかけます。
「伊邪那美……どうか、どうか……」
しかし、伊邪那美命の身体は炎に焼かれ、
その命はゆっくりと薄れていきました。
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、
愛する妻の手を握りしめながら叫びます。
「伊邪那美……戻ってきてくれ……!」
しかし、伊邪那美命の身体は冷たくなり、
その魂は黄泉の国へと向かっていきました。
世界は深い悲しみに沈み、
自然神たちも息を潜めました。
伊邪那美命の亡骸は、
火の神を産んだときの炎によって焼かれ、
その身体の各部位から、
新たな神々が次々と生まれていきました。
それは、
死が新たな生命を生む
という世界の摂理そのものでした。
🔥 頭から生まれた神
金山毘古神(かなやまひこのかみ)
金属・鉱山を司る神。
火によって焼かれた頭部から生まれ、
世界に金属の恵みをもたらす存在となりました。
金山毘売神(かなやまひめのかみ)
鉱石の精霊のような女神。
金属の輝きと大地の奥深さを象徴します。
🌾 胸から生まれた神
波邇夜須毘古神(はにやすびこのかみ)
波邇夜須毘売神(はにやすひめのかみ)
土と陶器の神々。
胸の奥に宿っていた「大地の豊かさ」が形となり、
粘土・土器・農耕の基盤を象徴する神々として生まれました。
🌊 腹から生まれた神
彌都波能売神(みつはのめのかみ)
水の流れ・泉・川の神。
腹部に宿っていた“水の循環”が神となり、
世界に清らかな水の道をもたらしました。
🌬 臍(へそ)から生まれた神
和久産巣日神(わくむすひのかみ)
生命の再生・芽吹きを司る神。
臍は生命のつながりの象徴であり、
そこから生まれたこの神は、
死の中から新たな生命を生む力を象徴していました。
🌾 陰部から生まれた神
豊受大神(とようけのおおかみ)(古事記では名は出ないが、後世の伝承に接続)
大宜都比売神(おおげつひめのかみ)(食物の神)
伊邪那美命の“生命を生む場所”から生まれた神々は、
食物・穀物・豊穣を司り、
世界に「生きるための糧」をもたらしました。
🌋 足から生まれた神
火之夜芸速男神(ひのやぎはやをのかみ)
火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)
火山の噴火・地熱・大地の怒りを象徴する神々。
足は大地と接する場所であり、
そこから生まれた火の神々は、
火山活動や地熱の力を司りました。
伊邪那美命の亡骸から生まれた神々は、
すべて 「火によって焼かれた身体の部位」 に対応しています。
・頭 → 金属
・胸 → 土と陶器
・腹 → 水
・臍 → 生命の再生
・陰部 → 食物・豊穣
・足 → 火山・地熱
つまり、
死は終わりではなく、世界の資源と恵みを生む源である
という日本神話の深い思想がここに示されています。
伊邪那美命は、かすかな声で語ります。
「私は……まだ……あなたと共に……
世界を生みたかった……
けれど……私の役目は……ここまでのようです……」
その言葉は、風に溶けるように弱く、
しかし確かな愛と覚悟を帯びていました。
伊邪那美命の身体は静かに冷たくなり、
その魂はゆっくりと黄泉の国へと向かっていきました。
世界は深い悲しみに沈み、
海は涙のように荒れ、
風は嘆きの声を運び、
大地は静かに震えました。
伊邪那岐命は、
愛する伊邪那美命を奪った炎を見つめ、
胸の奥に深い怒りが燃え上がりました。
「お前が……お前が伊邪那美を……!」
伊邪那岐命は剣を抜き、
迦具土神に向かって振り下ろしました。
迦具土神の身体が裂かれたとき、
その血と肉片は大地に落ち、
そこから新たな神々が生まれました。
火は破壊であると同時に、
新たな創造の源でもあったのです。
◆ 迦具土神の血から生まれた神々
● 石折神(いわさくのかみ)
岩を砕く力を持つ神。
● 根折神(ねさくのかみ)
大地の根を断ち切る力を持つ神。
● 石筒之男神(いわつつのおのかみ)
岩の柱のように強固な神。
これら三柱は、
火の破壊力が大地に与える影響を象徴していました。
◆ 迦具土神の血が山に落ちて生まれた神々
火之夜芸速男神(ひのやぎはやをのかみ)
火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)
火山の噴火や地熱を司る神々。
◆ 迦具土神の身体(肉)から生まれた神々
伊邪那岐命が迦具土神の身体を八つに切り裂いたとき、
その肉片から八柱の山の神々が生まれました。
正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)
淤縢山津見神(おどやまつみのかみ)
奥山津見神(おくやまつみのかみ)
闇山津見神(くらやまつみのかみ)
志芸山津見神(しぎやまつみのかみ)
羽山津見神(はやまつみのかみ)
原山津見神(はらやまつみのかみ)
戸山津見神(とやまつみのかみ)
彼らは山々の八方を司り、
世界の地形と大地の力を整える存在となりました。
伊邪那岐命は、
伊邪那美命のいない世界を見つめ、
深い喪失の中で立ち尽くしました。
世界は静まり返り、
自然神たちも息を潜め、
ただ風だけが、
伊邪那美命の気配を探すように吹き抜けていました。
しかし、この悲しみは、
次に訪れる“禊ぎ”と“新たな神々の誕生”へとつながっていきます。
伊邪那岐命は、
黄泉の国へ向かう決意を胸に、
静かに歩き出しました。

伊邪那美命を失った世界は、深い影に沈んでいました。
伊邪那岐命は、愛する妻を取り戻すため、
生と死の境界である 黄泉比良坂(よもつひらさか) へ向かいます。
そこは風も吹かず、光も差さず、
ただ冷たい闇が漂う場所でした。
坂の向こうには、
かつての美しさを失い、黄泉の穢れに染まった伊邪那美命がいました。
伊邪那岐命は震える声で呼びかけます。
「伊邪那美……戻ろう。共に世界を生み続けよう。」
しかし伊邪那美命は静かに首を振ります。
「私は……黄泉の食べ物を口にしました。
もう、生の世界には戻れません……」
その声は深い悲しみと後悔に満ちていました。
伊邪那岐命は恐怖と悲しみの中で逃げ出します。
背後からは黄泉の軍勢が迫ります。
・黄泉醜女(よもつしこめ)
・雷神八柱
・黄泉の影の軍勢
・穢れをまとった死の気配
伊邪那岐命は必死に逃げ、
ついに黄泉比良坂の入り口へ辿り着きます。
そこで、巨大な岩が目の前に現れました。
千引の岩(ちびきのいわ)
伊邪那岐命は全身の力を振り絞り、
その岩を坂の入り口に押し立てました。
岩が閉じた瞬間、
黄泉の追手たちの声は遮られ、
世界は再び静寂に包まれました。
岩の向こうから、伊邪那美命の声が響きます。
「あなたがこんなことをするなら……
私はあなたの国の人々を、一日に千人殺しましょう。」
伊邪那岐命は岩越しに答えます。
「ならば私は、一日に千五百の産屋を建てよう。
あなたが奪う命より多くの命を生み出そう。」
ここに、
死と生の循環 が定められました。
黄泉の穢れをまとった伊邪那岐命は、
そのままでは世界に戻れませんでした。
彼は海辺へ向かい、
そこで禊ぎを行うことを決意します。
海は静かに揺らぎ、
風は優しく吹き、
光は水面に反射して揺れ、
世界そのものが禊ぎを待っているようでした。
禊ぎは、ただの清めではありませんでした。
それは、伊邪那岐命の身体に宿る“創造の力”が、
穢れを祓う過程で新たな神々を生み出す儀式でもありました。
以下、古事記に記される すべての禊ぎ神 を物語として登場させます。
1. 衣を脱ぎ捨てたときに生まれた神々
伊邪那岐命が衣を脱ぐと、
その衣に付着した穢れが光に変わり、神々が生まれました。
衝立船戸神(つきたつふなどのかみ)
道俣神(ちまたのかみ)
和豆良比能宇斯能神(わづらひのうしのかみ)
彼らは境界・道・災厄を司り、
世界の秩序を整える役目を持ちました。
2. 穢れを祓うたびに生まれた神々
伊邪那岐命が黄泉の穢れを祓うと、
その穢れからも神々が生まれました。
八十禍津日神(やそまがつひのかみ)
大禍津日神(おおまがつひのかみ)
神直毘神(かむなおびのかみ)
大直毘神(おおなおびのかみ)
禍(まが)を祓い、
世界に再び調和をもたらす神々でした。
3. 海で身体を洗ったときに生まれた神々
● 海の底を洗ったとき
底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)
● 海の中ほどを洗ったとき
中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)
● 海の表を洗ったとき
上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)
海の三層を司る三柱の神々が誕生し、
海の秩序が整いました。
4. 水滴から生まれた神々
伊邪那岐命の身体から滴り落ちた水滴は光となり、
さらに神々を生みました。
速開都比売神(はやあきつひめのかみ)
速佐須良比売神(はやさすらひめのかみ)
彼女たちは穢れを遠くへ運び去る風のような神々でした。
禊ぎの最後、
伊邪那岐命が顔を洗ったとき、
世界は大きく変わります。
● 左目から
天照大御神(あまてらすおおみかみ)
太陽のように輝く女神。
● 右目から
月読命(つくよみのみこと)
静かで澄んだ月の神。
● 鼻から
須佐之男命(すさのおのみこと)
荒ぶる海と嵐の神。
三柱が生まれた瞬間、
世界は再び光を取り戻しました。
伊邪那岐命は三柱を見つめ、
それぞれに世界の役目を授けます。
天照大御神は 高天原 を
月読命は 夜の国 を
須佐之男命は 海原 を
こうして、
世界は再び秩序を取り戻し、
新たな時代へと進んでいきました。
天つ神たちは、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)と伊耶那美命(いざなみのみこと)の二柱に向かって、
「この漂い、まだ形の定まらない国を整え、固め、完成させなさい」
と命じ、天の玉矛(あめのたまほこ)を授けて国づくりを委ねました。
二柱の神は、天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、授かった玉矛を海へと差し下ろし、
ぐるりと掻き回しました。
そのとき、矛先が海をかき鳴らす音は「コオロ、コオロ」と響き、
矛を引き上げると、先端から滴り落ちた海水が積もり重なって、ひとつの島となりました。
その島こそが、オノゴロ島です。
伊耶那岐命(いざなぎのみこと)と伊耶那美命(いざなみのみこと)は、オノゴロ島に天降りなさり、まず 天の御柱(あめのみはしら) を見顕し、続いて 八尋殿(やひろどの) を建てました。
そこで伊耶那岐命は妹神の伊耶那美命に問いかけます。
「おまえの身体は、どのように出来上がっているのか。」
伊耶那美命は答えます。
「私の身体はほとんど出来上がっていますが、まだ出来上がっていないところが一箇所あります。」
すると伊耶那岐命は言います。
「私の身体は出来上がり過ぎているところが一箇所ある。そこで、私の出来上がり過ぎたところで、おまえの出来上がっていないところを塞ぎ合わせ、国土を生み出したいと思う。どうだろうか。」
伊耶那美命は「それがよいでしょう」と答えました。
伊耶那岐命は続けて言います。
「それでは、私とおまえとでこの天の御柱を別々に巡り、出会ったところで婚姻の儀を行おう。」
こうして二柱は約束を交わし、
「おまえは右から巡れ。私は左から巡ろう。」
と決めて、それぞれ柱の周りを歩き始めました。
やがて出会ったとき、伊耶那美命が先に
「まあ、なんと素敵な男性でしょう。」
と声をかけ、続いて伊耶那岐命が
「なんと美しい女性だろう。」
と唱えました。
しかし伊耶那岐命は、
「女人が先に唱えたのは良くなかった。」
と告げます。
そのため、このとき生まれた子は ヒルコ で、葦の船に乗せて流されました。
続いて生まれた 淡島 も、子として数えられませんでした。
二柱は相談し、
「今生まれた子は良い子ではなかった。天つ神の御所に参上してお伺いしよう。」
と決め、共に天へ昇って天つ神の言葉を仰ぎました。
天つ神はフトマニで占い、
「女人が先に唱えたことが原因で良くない結果となった。もう一度地上に戻り、改めて儀式を行いなさい。」
と告げました。
こうして二柱は再び地上に降り、天の御柱を巡る儀式を、先と同じ手順でやり直すことになりました。
正しい儀式ののちに始まる国生み
二柱の神は天つ神の教えに従い、再び地上へと降り、前と同じように天の御柱を巡りました。
今度は伊耶那岐命が先に
「ああ、なんて美しい女性なのだろう」
と言い、後から伊耶那美命が
「まあ、なんと素敵な男性でしょう」
と唱えました。
こうして正しい順序で言葉を交わし、二柱は夫婦となりました。
八つの島の誕生 ― 大八島国
結ばれた二柱が最初に生んだのは 淡道之穂狭別島(あわじのほのさわけのしま) でした。
続いて 伊予之二名島(いよのふたなのしま) を生みます。
この島は体は一つでありながら四つの顔を持ち、それぞれに名があります。
伊予国:愛比売(えひめ)
讃岐国:飯依比古(いいよりひこ)
粟国:大宜都比売(おおげつひめ)
土佐国:建依別(たけよりわけ)
次に 隠伎の三子島(おきのみつごのしま) を生みました。
別名は 天忍許呂別(あめのおしころわけ)。
続いて 筑紫島(つくしのしま) を生みます。
この島も体一つに四つの顔を持ち、それぞれに名があります。
筑紫国:白日別(しらひわけ)
豊国:豊日別(とよひわけ)
肥国:建日向日豊久士比泥別(たけひむかひとよくじひねわけ)
熊襲国:建日別(たけひわけ)
次に 伊岐島(いきのしま) を生み、別名を 天比登都柱(あめのひとつばしら) といいます。
次に 津島(つしま) を生み、別名は 天之狭手依比売(あめのさでよりひめ)。
次に 佐渡島(さどのしま) を生み、
そして本州にあたる 大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま) を生みました。
別名は 天御虚空豊秋津根別(あめのみそらとよあきつねわけ)。
こうして最初に生まれた八つの島を総称して、大八島国(おおやしまのくに) と呼びます。
帰り道に生まれた六つの島
国生みを終えて帰る途中、二柱はさらに六つの島を生みました。
吉備の児島(こじま)
別名:建日方別(たけひかたわけ)
小豆島(あずきしま)
別名:大野手比売(おおのてひめ)
大島(おおしま)
別名:大多麻流別(おおたまるわけ)
女島(ひめじま)
別名:天一根(あめのひとつね)
知訶島(ちかのしま)
別名:天忍男(あめのおしお)
両児の島(ふたごのしま)
別名:天両屋(あめのふたや)
吉備の児島から天両屋の島まで、合わせて六島となります。神生みの始まり
国生みを終えた二柱の神は、さらに多くの神々をお生みになりました。
最初に生まれたのは、偉大な創造の営みそのものを象徴する 大事忍男神(おおことおしおのかみ) です。
続いて、世界の基盤となる自然や住まいに関わる神々が次々と生まれます。
石土毗古神(いわつちびこのかみ) — 土石の神格化
石巣比売神(いわすひめのかみ) — 石や砂の神
大戸日別神(おおとひわけのかみ) — 家の出入り口の神
天之吹男神(あめのふきおのかみ) — 天井を葺く神
大屋毗古神(おおやびこのかみ) — 家屋の神
風木津別之忍男神(かざもつわけのおしおのかみ) — 風の神
大綿津見神(おおわたつみのかみ) — 海の神
速秋津日子神(はやあきつひこのかみ) — 水の出口の神
速秋津比売神(はやあきつひめのかみ) — 水の入口の女神
大事忍男神から速秋津比売神まで、合わせて十柱の神が生まれました。
水の流れを象徴する八神
速秋津日子神・速秋津比売神の二柱は、河と海の水の流れを象徴する神々を次々と生みます。
沫那芸神(あわなぎのかみ)
沫那美神(あわなみのかみ)
頰那芸神(つらなぎのかみ)
頰那美神(つらなみのかみ)
天之水分神(あめのみくまりのかみ) — 天の水の分配
国之水分神(くにのみくまりのかみ) — 地上の水の分配
天之久比奢母智神(あめのくひざもちのかみ) — 天の水汲み
国之久比奢母智神(くにのくひざもちのかみ) — 地上の水汲み
沫那芸神から国之久比奢母智神まで、合わせて八柱です。
火之迦具土神の誕生と伊耶那美命の死
火之迦具土神(かぐつちのかみ)をお生みになったとき、その火の勢いによって伊耶那美命(いざなみのみこと)は女陰を焼かれ、重い病に伏せることになりました。
それでもなお、伊耶那美命の身体からは次々と神々が生まれます。
嘔吐から生まれた神
金山毗古神(かなやまひこのかみ)
金山毗売神(かなやまひめのかみ)
大便から生まれた神
波迩夜湏毗古神(はにやすひこのかみ)
波迩夜湏毗売神(はにやすひめのかみ)
尿から生まれた神
弥都波能売神(みつはのめのかみ)
和久産巣日神(わくむすひのかみ)
和久産巣日神の子として、食物を司る 豊宇気毗売神(とようけひめのかみ) が生まれました。
こうして、天鳥船神から豊宇気毗売神まで、合わせて八柱の神が生まれたことになります。
しかし、火の神を生んだことが原因で、伊耶那美命はついに命を落とし、あの世へと旅立たれました。
生まれた島と神々の総数
伊耶那岐命・伊耶那美命の二柱が共に生んだ島は 十四島、
共に生んだ神は 三十五柱 に及びます。
ただし、
意能碁呂島(おのごろしま) は生んだのではなく、矛の滴から生まれた島であること
蛭子(ひるこ) と 淡島(あわしま) は子として数えないこと
が特記されています。
これらはすべて、伊耶那美命が黄泉へ向かわれる前に生まれた神々です。伊耶那岐命の深い悲しみと泣沢女神
伊耶那美命が亡くなったとき、伊耶那岐命は深い悲しみに沈み、
「愛しい我が妻よ、一人の子のために命を失うなどと思っただろうか」
と嘆き、枕元に伏し、足元に伏して泣き続けました。
その涙から生まれた神が、
泣沢女神(なきさわめのかみ) で、香山の畝尾の木の下に鎮まる神とされています。伊耶那美命の葬り
亡くなった伊耶那美命は、
出雲国と伯伎国(伯耆国)の境にある比婆の山 に葬られました。
この地は、古来より「母なる神の眠る場所」として語り継がれています。
迦具土神を斬る ― 御刀から生まれた八神
伊耶那美命を死に至らしめた火之迦具土神(かぐつちのかみ)に怒り、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)は身に帯びていた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜き、その首を斬りました。
そのとき、御刀についた血が神聖な石の群に飛び散り、そこから次の神々が生まれました。
刀の先についた血から生まれた三神
石析神(いわさくのかみ)
根析神(ねさくのかみ)
石箇之男神(いわかのをのかみ)
刀の手元についた血から生まれた三神
甕速日神(みかはやひのかみ)
樋速日神(ひはやひのかみ)
建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)
別名:建布都神(たけふつのかみ)
別名:豊布都神(とよふつのかみ)
刀の柄に集まった血から生まれた二神
闇淤加美神(くらおかみのかみ)
闇御津羽神(くらみつはのかみ)
石析神から闇御津羽神まで、合わせて八柱が「御刀に因って生まれた神々」です。
迦具土神の身体から生まれた八神 ― 山の神々
斬られた迦具土神の身体からは、山々を象徴する八柱の神が生まれました。
頭から:正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)
胸から:淤縢山津見神(おどやまつみのかみ)
腹から:奧山津見神(おくやまつみのかみ)
陰から:闇山津見神(くらやまつみのかみ)
左手から:志藝山津見神(しぎやまつみのかみ)
右手から:羽山津見神(はやまつみのかみ)
左足から:原山津見神(はらやまつみのかみ)
右足から:戸山津見神(とやまつみのかみ)
正鹿山津見神から戸山津見神まで、合わせて八柱です。
これらは日本各地の山々の霊性を象徴する神々として、後の神話にも深く関わっていきます。
黄泉国での再会と禁を破る瞬間
伊耶那岐命(いざなぎのみこと)は、亡くなった妻・伊耶那美命(いざなみのみこと)に会いたい一心で、黄泉国へと追って行きました。
黄泉国の御殿の戸口に伊耶那美命が現れたとき、伊耶那岐命は語りかけます。
「愛しいわが妻よ。私たちが共に作った国は、まだ完成していない。どうか戻ってきてほしい。」
伊耶那美命は答えました。
「なんと残念なことでしょう。あなたがもっと早く来てくだされば…。私はすでに黄泉国のかまどで煮炊きしたものを食べてしまいました。
それでも、あなたがこの国まで来てくださったことは恐れ多いことです。帰りたいと思います。
ただし、黄泉の神々と相談してまいります。その間、決して私の姿をご覧にならないでください。」
そう言って伊耶那美命は御殿の奥へ戻りました。しかし、待てども待てども戻ってこず、伊耶那岐命はついに待ちきれなくなります。
禁を破り、火を灯して見たもの
伊耶那岐命は、左の髪に挿していた神聖な爪櫛の太い歯を一本折り取り、それに火を灯して御殿の中へ入りました。
そこで目にしたのは、もはや生者の姿ではない、恐ろしい変わり果てた伊耶那美命でした。
身体には蛆がたかり、うごめいている
頭には 大雷(おおいかづち)
胸には 火雷(ほのいかづち)
腹には 黒雷(くろいかづち)
女陰には 析雷(さくいかづち)
左手には 若雷(わかいかづち)
右手には 土雷(つちいかづち)
左足には 鳴雷(なるいかづち)
右足には 伏雷(ふしいかづち)
これら八柱の雷神が、伊耶那美命の身体から現れていたのです。
黄泉国からの逃走と醜女たちの追跡
伊耶那美命の変わり果てた姿を見た伊耶那岐命(いざなぎのみこと)は、恐れおののき、黄泉国から逃げ出しました。
そのとき、伊耶那美命(いざなみのみこと)は怒りに満ちて叫びます。
「よくも私に恥をかかせましたね!」
そして、黄泉国の醜女(しこめ)たちを遣わし、伊耶那岐命を追わせました。
伊耶那岐命は逃げながら、身につけていたものを次々と投げ捨てて追手を遅らせます。
黒御かずらを投げると、たちまち山ぶどうの実が生え、醜女たちはそれを拾って食べ始めた
その間に伊耶那岐命は距離を稼ぐ
しかし醜女たちは再び追ってくる
次に、右の髪に挿していた神聖な爪櫛の歯を折って投げると、そこから竹の子が生えました。
醜女たちはそれを抜いて食べている間に、伊耶那岐命はさらに逃げ続けます。
八雷神と黄泉軍の追撃
醜女たちだけでは追いつけないと見た伊耶那美命は、
八種の雷神に、千五百の黄泉の軍勢を従えて追わせました。
伊耶那岐命は腰の十拳剣(とつかのつるぎ)を抜き、後ろ向きに振りかざしながら必死に逃げます。
それでも雷神たちは執拗に追い迫ってきました。
ついに伊耶那岐命は、黄泉国と現世の境である**黄泉比良坂(よもつひらさか)**のふもとに到達します。そこに生えていた桃の木から三つの実を取り、追ってくる雷神と黄泉軍に向かって投げつけました
すると、雷神たちも黄泉の軍勢も恐れをなし、すべて引き返していきました。
桃の実は、古来より「魔を祓う力」を象徴する果実です。
伊耶那岐命は、自分を救った桃の実に向かって語りかけます。
「お前が私を助けてくれたように、葦原中国(あしはらのなかつくに)に住むすべての生ある人々が、苦しみ悩むときには助けてやってほしい。」
そして桃の実に名を与えました。
意冨加牟豆美命(おほかむづみのみこと)
この神は、後の時代にも「厄除け」「魔除け」の象徴として語り継がれていきます。
黄泉比良坂での最終の追跡と決別
伊耶那岐命(いざなぎのみこと)が桃の実の力で黄泉の軍勢を退けたあと、ついに伊耶那美命(いざなみのみこと)自身が追ってきました。
伊耶那岐命は、千人がかりでようやく動かせるほどの巨大な岩を引き寄せ、
黄泉比良坂(よもつひらさか)の道を塞ぎました。
その巨大な岩を間に挟み、二柱は向かい合って最後の言葉を交わします。
夫婦の断絶を告げる言葉
岩越しに、伊耶那美命は怒りと悲しみを込めて言いました。
「愛しいわが夫よ。あなたがこんなことをするのなら、私はあなたの国の人々を、一日に千人殺してみせましょう。」
これに対して伊耶那岐命は静かに、しかし強く答えます。
「愛しいわが妻よ。お前がそうするなら、私は一日に千五百の産屋を建てよう。」
このやり取りによって、
この世では一日に千人が死に、千五百人が生まれるという理が定められたと語られます。
黄泉の神々の名とその意味
この決別ののち、伊耶那美命は次のように名付けられます。
黄泉津大神(よもつおおかみ)
黄泉の国を司る大神としての名。
道敷大神(みちしきのおおかみ)
伊耶那岐命を追って道を敷いた(追い迫った)ことに由来する名。
また、黄泉比良坂を塞いだ巨大な岩は、
道返之大神(ちがえしのおおかみ)
黄泉の道を返し、現世と死の国を隔てる役割を持つ神。
さらに、岩そのものを
黄泉戸大神(よもつへのおおかみ)
黄泉の入口を塞ぐ神
とも呼びます。
そして、この黄泉比良坂は、
「現在の出雲国の伊賦夜坂(いふやざか)である」と伝えられています。
禊ぎの決意と橘の小門のあわき原
黄泉国での出来事を終えた伊耶那伎大神(いざなぎのおおかみ)は、深い嘆きと嫌悪を込めて言います。
「私はなんと醜く、穢れた国へ行ってしまったのだ。
だから、身体の穢れを洗い清めよう。」
こうして、筑紫の日向の橘の小門のあわき原へ赴き、禊ぎを始めました。
身につけていたものを脱ぎ捨てて生まれた十二柱の神
伊耶那伎大神が身につけていた装束を一つずつ脱ぎ捨てるたびに、そこから神々が誕生しました。
杖から生まれた神
衝立船戸神(つきたつふなどのかみ)
帯から生まれた神
道之長乳歯神(みちのながちはのかみ)
嚢(ふくろ)から生まれた神
時量師神(ときはかしのかみ)
衣から生まれた神
和豆良比能宇斯能神(わづらひのうしのかみ)
褌(みこし)から生まれた神
道俣神(みちまたのかみ)
冠から生まれた神
飽咋之宇斯能神(あきぐいのうしのかみ)
左手の手纏(たまき)から生まれた三柱
奥疎神(おきざかるのかみ)
奥津那芸佐毗古神(おきつなぎさひこのかみ)
奥津甲斐弁羅神(おきつかいべらのかみ)
右手の手纏から生まれた三柱
辺疎神(へざかるのかみ)
辺津那芸佐毗古神(へつなぎさひこのかみ)
辺津甲斐弁羅神(へつかいべらのかみ)
衝立船戸神から辺津甲斐弁羅神まで、合わせて十二柱が、
伊耶那伎大神が身につけていたものを脱ぎ捨てたことによって生まれた神々です。
禊ぎの三段階と、そこから生まれた神々
伊耶那岐命(いざなぎのみこと)は、
「上の瀬は流れが激しい。下の瀬は流れが弱い」
と仰り、中ほどの瀬に身を投じて禊ぎを始めました。
ここから、穢れによって生まれる神、穢れを直す神、そして水の三層から生まれる神々が順に現れます。
穢れから生まれた二柱の神
伊耶那岐命が最初に身をすすいだとき、黄泉国の穢れから次の二柱が生まれました。
八十禍津日神(やそまがつひのかみ)
大禍津日神(おおまがつひのかみ)
これらは「禍(まが)」――災いや穢れそのものを象徴する神々です。
禍を直すために生まれた三柱の神
続いて、禍を正し、清めるための神々が現れます。
神直毘神(かむなおびのかみ)
大直毘神(おおなおびのかみ)
伊豆能売(いずのめ)
この三柱は、穢れを「直す」働きを持つ、祓いの神々です。
水の三層から生まれた六柱の神
伊耶那岐命が水の深さに応じて身をすすぐと、それぞれの層から神々が生まれました。
水の底で生まれた神
底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)
底箇之男命(そこかのおのみこと)
水の中ほどで生まれた神
中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)
中箇之男命(なかかのおのみこと)
水の表面で生まれた神
上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)
上箇之男命(うわかのおのみこと)
この三柱の綿津見神は、阿曇連(あづみのむらじ)が祖神として祀る神であり、
阿曇氏はその子孫である宇都志日金析命(うつしひかなしこのみこと)の後裔とされています。
また、底箇之男命・中箇之男命・上箇之男命の三柱は、
墨江の三前の大神(すみえのみまえのおおかみ)として祀られています。
三貴神の誕生 ― 禊ぎの頂点
禊ぎの最後に、伊耶那岐命が顔を洗ったとき、最も重要な三柱の神が誕生します。
左の御目を洗ったとき
→ 天照大御神(あまてらすおおみかみ)
右の御目を洗ったとき
→ 月読命(つくよみのみこと)
御鼻を洗ったとき
→ 建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)
この三柱は「三貴神(さんきしん)」と呼ばれ、
後の日本神話の中心となる存在です。
禊ぎで生まれた神々の総数
八十禍津日神から建速須佐之男命まで、
合わせて十柱が、伊耶那岐命が身をすすいだことによって生まれた神々です。
禊ぎは単なる清めではなく、
世界の秩序を再構築し、光と闇、昼と夜、海と風の神々を生み出す創造の儀式として描かれています。
伊奘諾尊(いざなぎのみこと)と伊奘冉尊(いざなみのみこと)が、天浮橋(あまのうきはし)の上にお立ちになって相談して言われました。
「この底の一番下に国がないはずはない」
とおっしゃって、玉で飾った矛(ほこ)を指し示され、下の方をお探りになりました。
すると、そこに青海原(あおうなばら)が見つかり、その矛先から滴った海水が凝り固まって、ひとつの島になりました。これを名付けて磤馭慮島(おのころしま)といいます。
二柱の神はそこでこの島にお降りになって、夫婦の行為を行って国土を生もうとなさいました。そこで磤馭慮島(おのころしま)を国中の柱として、男神は左より回り、女神は右から回られました。国の柱をめぐって二人のお顔が行きあいました。
そのとき、女神が先に唱えて言われました。
「ああうれしい。立派な若者に出会えた」
男神は喜ばれず、こう言われました。
「自分は男である。順序としては男から先に言うべきである。どうして女が先に言うのか。不祥なことになった。だから改めて回り直そう」
そこで二柱の神はもう一度回り直して出会われました。
次は男神から先に唱えられました。
「ああうれしい。愛らしい少女に会えた」
とおっしゃいました。
そして女神にお尋ねになりました。
「あなたの体にどんなになったところがあるだろうか?」
それに対する女神のお答えは、
「私の体には、ひとつの雌のはじまりというところがございます」
男神は言われました。
「私の体にも、雄のはじまりというところがある。私の体のはじめのところで、あなたの体のはじめのところに合わせようと思う」
こうして陰陽が初めて交合して、二柱は夫婦となられました。
大八洲国の誕生
子が生まれるとき、まず淡路洲(あわじのしま)が生まれましたが、不満足な出来でありました。そこで名付けて淡路洲(吾恥=アハジ)といいます。
続いて次の島々をお生みになりました。
大日本豊秋津洲(おおやまととよあきつしま)
伊予二名洲(いよのふたなのしま)
筑紫洲(つくしのしま)
億岐洲(おきのしま)と佐度洲(さどのしま)を双子でお生みになりました
※世の中の人が双子を生むことがあるのは、これによるためであるといいます
越洲(こしのしま)
大洲(おおしま)
吉備子洲(きびのこしま)
これによって初めて大八洲国(おおやしまのくに)の名が出来ました。
対馬島(つしま)、壱岐島(いきのしま)、およびその他の小島は、潮の泡が固まって出来たものである、あるいは水の泡が固まって出来たものであるとも言われています。
山川草木の誕生
次に海をお生みになりました。
次に川をお生みになりました。
次に山をお生みになりました。
次に木の精である句句廼馳(くくのち)をお生みになりました。
次に草の精である草野姫(かやひめ)をお生みになりました。またの名を野の精といいます。
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊奘冉尊(いざなみのみこと)は相談して言われました。
「私は大八洲国(おおやしまのくに)や山川草木を生みました。そろそろ天下を治める者を生まなければならないでしょう」
そこでお二人は一緒に日の神をお生みになりました。大日孁貴(おおひるめのむち)といいます。別の言い伝えでは天照大神(あまてらすおおみかみ)といいます。
この御子は華やかに光り麗しく、国中を照らしました。それで二柱の神は喜ばれ、
「我が子たちはたくさんいるが、まだこんなに妖しく不思議な子はいない。長くこの国に留めておくのはよくない。早く天に送り、高天原(たかまがはら)の仕事をしてもらおう」
とおっしゃいました。
このとき、天と地はまだそれほど離れていませんでした。
そこで天御柱(あまのみはしら)をたどって、天上にお送りになりました。
次に月の神をお生みになりました。その光り麗しいことは太陽に次いでいました。
それで太陽と並んで治めるのがよいと判断し、これもまた天に送られました。
次に蛭児(ひるこ)をお生みになりました。三年経っても足が立ちませんでした。
そこで天磐櫲樟船(あめのいわくすふね)に乗せて、風のままに放流されました。
次に素戔嗚尊(すさのおのみこと)をお生みになりました。
この方は勇ましく荒々しく、残忍なことも平気でした。また常に泣きわめくことがありました。
それで国内の人々を多く若死にさせ、青山を枯山にしてしまいました。
そこで父母の二神は素戔嗚尊に、
「お前は大変無道である。だから天下を治めることはできない。遠い根の国に行きなさい」
と言って追放されました。
別の言い伝え(第一)
伊弉諾尊は、
「私は天下を治めるべきすべての子を生もうと思う」
とおっしゃり、左手で白銅鏡(ますみのかがみ)をお取りになったときに生まれた神が大日孁貴(おおひるめのむち)です。
右手で白銅鏡をお取りになったときに生まれた神が月弓尊(つくゆみのみこと)です。
また、首を回して後ろをご覧になったときに生まれたのが素戔嗚尊です。
このうち大日孁貴と月弓尊はともに人となりが麗しいので、天地を照らし治めさせられました。
素戔嗚尊は物を損ない壊すことを好んだため、下にくだして根の国を治めさせられました。
別の言い伝え(第二)
日と月が生まれたあとに蛭児が生まれました。
この子は三歳になっても足が立ちませんでした。
最初、伊弉諾尊と伊奘冉尊が柱を回られたとき、女神が先に喜びの言葉を言われました。
それが陰陽の道理にかなっていなかったために蛭児が生まれたのだといいます。
次に素戔嗚尊が生まれました。
この神は性質が悪く、常に泣いたり怒ったりしました。
国の人々が多く死に、青山を枯山にしました。
そこで両親は、
「もしお前がこの国を治めたら、きっと損ない破ることが多いだろう。だから遠い根の国を治めなさい」
と言われました。
次に鳥磐櫲樟船(とりのいわくすふね)を生み、この船に蛭児を乗せて放流しました。
次に火の神・軻遇突智(かぐつち)を生みました。
そのとき伊奘冉尊はいざなみのみことは火傷をしてお亡くなりになりました。
亡くなる際に、横たわったまま土の神・埴山姫(はにやまひめ)と、水の神・罔象女(みつはのめ)を生みました。
軻遇突智は埴山姫を娶って稚産霊(わくむすひ)を生みました。
この神の頭の上に蚕と桑が生じ、臍の中に五穀が生まれました。
別の言い伝え(第三)
伊奘冉尊が火産霊(ほむすひ)を生むとき、子のために焼かれて死にました。
死なれようとするときに、水の神・罔象女、土の神・埴山姫、また天吉葛(あまのよさつら)を生みました。
別の言い伝え(第四)
伊奘冉尊が火の神・軻遇突智を生もうとするとき、熱に苦しめられて嘔吐しました。
これが神となり、金山彦(かなやまひこ)といいます。
次に小便をされ、それが神となり、罔象女(みつはのめ)といいます。
別の言い伝え(第五)
伊奘冉尊が火の神を生むときに体を焼かれて亡くなりました。
紀伊国の熊野の有馬村に葬りました。
土地の人はこの神を花の季節に花をもって祭り、鼓・笛・旗をもって歌舞して祭ります。
別の言い伝え(第六)
伊弉諾尊と伊奘冉尊は協力して大八洲国を生みました。
そして伊弉諾尊が、
「我らの生んだ国は朝霧がかかっているが、良い香りがいっぱいだ」
と言って霧を吹き払われました。
その息が神となり、級長戸辺命(しなとべのみこと)、またの名を級長津彦命(しなつひこのみこと)といいます。これは風の神です。
また、飢えて気力のないときに生んだ子を倉稲魂命(うかのみたまのみこと)といいます。
生んだ海の神たちを少童命(わたつみのみこと)といいます。
山の神たちを山祇(やまつみ)といいます。
海峡の神たちを速秋津日命(はやあきつひのみこと)といいます。
木の神たちを句句廼馳(くくのち)といいます。
土の神たちを埴安神(はにやすのかみ)といいます。
そしてのちに万物が生まれました。
軻遇突智を斬ったときの神々
火の神・軻遇突智が生まれるとき、母の伊奘冉尊は身を焼かれてお隠れになりました。
伊弉諾尊は恨んで言われました。
「ただこの一人の子のために、我が愛妻を犠牲にしてしまった」
そして伊奘冉尊の頭や足のあたりを這いずり回って泣き悲しみ、涙を流されました。
その涙が神となり、啼澤女命(なきさわめのみこと)といいます。
伊弉諾尊は十握剣(とつかのつるぎ)を抜いて軻遇突智を三段に切りました。
その各々が神となりました。
剣の刃から滴る血が天の安河のほとりの岩群となり、これが経津主神(ふつぬしのかみ)の先祖です。
剣の鍔から滴る血が甕速日神(みかはやひのかみ)となり、次に熯速日神(ひのはやひのかみ)が生まれました。
熯速日神は武甕槌神(たけみかづちのかみ)の先祖です。
または甕速日命、次に熯速日命、次に武甕槌神が生まれたともいいます。
剣の先から滴る血が岩裂神(いわさくのかみ)、次に根裂神(ねさくのかみ)、次に磐筒男命(いわつつおのみこと)となりました。
ある言い伝えでは磐筒男命と磐筒女命(いわつつめのみこと)といいます。
剣の柄頭から滴った血が闇龗(くらおかみ)、次に闇山祇(くらやまつみ)、次に闇罔象(くらみつは)が生まれました。
黄泉の国
その後、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)は伊奘冉尊(いざなみのみこと)を追いかけて、黄泉の国まで行って話し合われました。
そのとき伊奘冉尊はいわれました。
「わが夫の尊よ、いらっしゃるのが遅すぎました。私はもう黄泉の国の食物を食べてしまいました。そして、私はもう寝ようとするところです。どうか寝姿を見ないでください」
と申されました。
しかし伊弉諾尊はいわれたことを聞き入れず、こっそりと爪櫛(つまぐし)をとって、その端の太い歯を欠き、手灯として照らしてご覧になりました。
すると、膿が流れ、蛆が湧いている伊奘冉尊の姿がありました。
今の世の人が、夜に一つの火を灯すことを忌み、また夜に櫛を投げることを忌むのは、これがその起こりであるといいます。
このとき伊弉諾尊は大いに驚かれ、
「私は思いがけぬ酷く汚い国にやってきた」
と言って、急いで逃げ帰られました。
そのとき伊奘冉尊はいわれました。
「どうして覗き見してはならぬという約束を守らず、私に恥をかかせたのですか」
そして冥界の鬼女八人、あるいは泉津日狭女(よもつひさめ)という女を遣わして追わせました。
伊弉諾尊は剣を抜いて後ろを振り払いながら逃げました。
また、髪に巻いていた蔓草の飾りを投げました。
これが葡萄(ぶどう)になりました。
醜女(しこめ)はこれを拾って食べました。
食べ終わるとまた追ってきました。
伊弉諾尊はまた爪櫛を投げました。
これが筍(たけのこ)になりました。
醜女はそれを抜いて食べました。
食べ終わるとまた追ってきました。
その後から伊奘冉尊自身も追ってきました。
このとき伊弉諾尊は、もう黄泉の国の境である平坂(ひらさか)に着きました。
一説では、伊弉諾尊は大樹に向かって放尿されました。
これが大きな川となりました。
泉津日狭女がこの川を渡ろうとする間に、伊弉諾尊は泉津平坂(よもつひらさか)に着いたといいます。
そこで千引きの磐(ちびきのいわ)でその坂路を塞ぎ、伊奘冉尊と向かい合って、縁切りの呪言をはっきりと唱えました。
そのとき伊奘冉尊はいわれました。
「愛するわが夫よ。あなたがそのようにおっしゃるならば、私はあなたが治める国の民を、一日に千人ずつ締め殺しましょう」
伊弉諾尊は答えていわれました。
「愛するわが妻がそのように言うなら、私は一日に千五百人ずつ生ませましょう」
そして、
「これより入ってはならぬ」
と言って、持っていた杖を投げられました。
これを岐神(ふなとのかみ/塞の神)といいます。
また持っていた帯を投げられました。これを長道磐神(ながちわのかみ)といいます。
また着ていた衣を投げられました。これを煩神(わずらいのかみ)といいます。
またその申又(さるまた)を投げられました。これを開嚙神(あきくいのかみ)といいます。
またその履(くつ)を投げられました。これを道敷神(ちしきのかみ)といいます。
いわゆる泉津平坂というのは別世界の場所ではありません。
ただ、死に臨んで息が絶えそうな時をこういうのだといいます。
塞がっている磐石とは、冥界の入口をふさぐ大神のことで、別名を道返大神(ちかえしのおおかみ)といいます。
禊ぎと祓いの神々
伊弉諾尊は帰られて、後悔しながら言われました。
「私は先にひどく汚い所に行ってきた。だから私の体の汚れたところを洗い流そう」
伊弉諾尊は筑紫(九州)の日向の川の落ち口、橘の檍原(あわきはら)に行かれて、祓いをされました。
体の汚いところを濯ぐ際、
「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れが弱い」
と考え、中の瀬で濯ぎをされました。
それによって生まれた神を八十枉津日神(やそまがつひのかみ)といいます。
次にその汚れを直そうとして生まれた神を神直日神(かんなおひのかみ)といいます。
次に大直日神(おおなおひのかみ)が生まれました。
また水の底に潜って濯いだときに、底津少童命(そこつわたつみのみこと)が生まれました。
次に底筒男命(そこつつおのみこと)。
また潮の中に潜って濯いだときに、中津少童命(なかつわたつみのみこと)が生まれました。
次に中筒男命(なかつつおのみこと)。
また潮の上に浮いて濯いだときに、表津少童命(うわつつのおのみこと)が生まれました。
次に表筒男命(うわつつおのみこと)。
全部で九柱の神がお出でになりました。
底筒男命・中筒男命・表筒男命は住吉大神(すみのえのおおかみ)です。
底津少童命・中津少童命・表津少童命は阿曇連(あずみのむらじ)が祀る神です。
三貴子の誕生
その後、左の眼を洗われると天照大神(あまてらすおおみかみ)が生まれました。
右の眼を洗われると月読尊(つくよみのみこと)が生まれました。
鼻を洗われると素戔嗚尊(すさのおのみこと)が生まれました。
皆で三柱の神です。
伊弉諾尊は三柱の子にそれぞれ命じられました。
「天照大神は高天原を治めなさい。月読尊は青海原の潮流を治めなさい。素戔嗚尊は天下を治めなさい」
しかし素戔嗚尊は齢も高く、髭も長く伸びていましたが、天下を治められず、いつも泣き恨んでいました。
そこで伊弉諾尊が尋ねられました。
「お前はなぜいつも泣いているのか?」
素戔嗚尊は答えました。
「私は母について根の国に行きたいと思ってただ泣くのです」
伊弉諾尊はこれに不満を持ち、
「望み通りにしなさい」
と言って素戔嗚尊を追いやりました。
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